孫子 四.形(後半)

 勝を見ること衆人の知る所に過ぎざるは、善の善なる者に非ざるなり。戦い勝ちて天下善なりと曰うは、善の善なる者に非ざるなり。
 故に秋毫を挙ぐるは多力と為さず。日月を見るは明目と為さず。雷霆を聞くは聡耳と為さず。
 古えの所謂善く戦う者は、勝ち易きに勝つ者なり。故に善く戦う者の勝つや、奇勝無く、智名無く、勇功無し。故に其の戦い勝ちてたがわず。たがわざる者は、其の勝を措く所、已に敗るる者に勝てばなり。故に善く戦う者は不敗の地に立ち、而して敵の敗を失わざるなり。是の故に勝兵は必ず勝ちて、而る後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いて而る後に勝ちを求む。
 善く兵を用うる者は、道を修めて法を保つ。故に能く勝敗の政を為す。
 兵法は、一に曰わく度[たく]、二に曰わく量、三に曰わく数、四に曰わく称、五に曰わく勝。地は度を生じ、度は量を生じ、量は数を生じ、数は称を生じ、称は勝を生ず。
 故に、勝兵は鎰を以て銖を称[はか]るが若く、敗兵は銖を以て鎰を称るが若し。
 勝を称る者の民を戦わすや、積水を千仭の谿に決するが若き者は、形なり。



 なぜ勝てたのか、その理解が衆目の見るところを越えないのであれば、優れた者とはいえない。戦いに勝ち、天下の人みなが素晴らしいと讃えても、優れた者とはいえない。
 細い毛を持ち上げたからといって力持ちとはいえない。太陽と月が見えるからといって視力が良いとはいえない。雷鳴が聞こえたからといって耳が良いとはいえない。そんな風に、優れた者とは簡単に勝てる相手に簡単に勝つ者のことである。
 だから、優れた者の勝利には、劇的な逆転勝利はなく、優秀だと褒め称えられることも、勇敢だと表彰されることもない。その勝利は計画と寸分違わぬ勝利だ。計画と寸分違わぬのは、自分が既に勝っている状態にしてから、自分に敗れる相手と戦ったからだ。
 戦いの巧みな者は不敗の態勢で、相手が敗れてくれるのを逃さないものだ。勝つ者はまず勝ちを収めてから勝負をしかける、敗れる者は勝負をしかけてから勝ちを求める。
 戦いの巧みな者は段階を踏まえつつ原則に従う。その原則とは、一に距離、二に物量、三に人数、四に比較、五に勝算、である。戦場が目指す勝利への距離を教え、距離が何をどれだけそろえるかを教え、それがどんな人物をどれだけ集めるべきかを教え、それらをもって相手との力の差を比較し、検証した後に勝算を組み立てるのである。
 勝つ者は相手側の天秤皿にのる軽い分銅に対して、こちらの皿に重い分銅をのせるように勝つ。敗れる者は相手側の天秤皿にのる重い分銅に対して、こちらの皿に軽い分銅をのせるように敗れる。
 勝敗を量る者は戦いをしかけるにあたり、満々と貯めた水を一気に深い谷底へ決壊させるようにしかける。これを形とするのである。

※上記の文章は書き下し文・訳文とも、編集者のチェックが入っておりませんので不完全です。下記の書籍を参照していただければありがたいです。

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