第一志望非在論(10)

 第一志望非在論(6)の冒頭で示した2つの質問

<1>『第一志望はどちらですか』『ウチが第一志望なのですか』
<2>『ウチが内定を出したら今後の就職活動はどうなさるおつもりですか』

のうち<2>については未だ言及していなかったので、ここで述べる。
 基本のスタンスは(6)でも示した通り、

「御社が第一志望であり、したがって御社から内定をいただければ就職活動は止めます」

である。だが、現実にはこの言葉の通りにしてしまうと、本当に自分が身を預けるべき就職先を見極められなくなる。
 よって、これはウソとなる。

 応募先の組織には気の毒だといえなくもないが、全部ではないとはいえ、「ウソ」に関してはお互い様だ。
 組織の側も採用広告では脚色してくる。企業イメージを高めるべく、外部のプロを使って見栄えのいいHPやパンフレットをつくり、説明会ではこの会社が夢の職場であるかのように演出する。都合の良い一部の事柄は、それが全部であるかのように強調し、都合の悪い事柄は、巧みな言葉の言い換えで欺き、どうしても巧みに言い換えられない事柄は、隠蔽する。組織は人間の集合だ。だから人間と同じく、組織はウソをつく。

 このような採用側が発した情報で組織を判断しているのだから、応募者は内定をもらった時点ではその内定先の本当の姿が見ることができない。また、新卒なら一つや二つ内定をもらったくらいでは業界や社会のことが見えていないことが多い。
 それら「世間知らずの状態」は新たな知見(=知識や出会い)という刺激を受けていないということになる。ということは、その刺激に自分はどう反応するのかということを知らぬまま就職先を決めることになる。つまり、十分な自己分析ができていないということになる。
 真の自己分析とは、外界に対して自分がどう感じ、どう考え、どう行動するかで為される。真の自己分析は企業研究・業界研究・社会研究と同義なのだ。 

 内定を得るまでは、どうしても真実に関する情報は乏しく、得ようとしても容易には得られない。ところが内定が出れば、君はその組織の身内ということになる。今までは外部者であったが、内定を得れば内部に食い込める。そこで、「世間」を知る。本当の組織の姿が見えやすくなる。そこから新たな刺激を受けることになる。良い刺激も悪い刺激も。
 その時点で始めて本当の企業研究=自己分析が始まる。その結果、もしその組織へ入るのは自分にとって適切ではないと判断された時、他の選択肢がなければ逃げられなくなる。

 その意味で、複数内定獲得=他の選択肢の確保は、真に幸せな就職を成し遂げるためには絶対に不可欠なのである。企業研究という側面でも内部に食い込める組織が複数あったほうが、組織の本当の姿を比較検討できるゆえ、有効な判断が下しやすい。
 だから、「御社から内定をいただければ就職活動は止めます」とウソをつくべきなのである。


 だが、丸っきりウソをつくのに抵抗がある人もいよう。そういう人には真実の一部を言うという方法がある。「複数内定獲得を最初から目指しており、3社以上内定を獲得して、その後、入社までじっくりと比較検討させてもらう」という丸っきりの真実は言えないが、「就職活動の継続」という真実の一部だけを述べる方法だ。その際、当然理由付けが重要になってくる。

面接官「ウチがあなたに内定を出したら今後の就職活動はどうなさるおつもりですか。」
応募者A「御社から内定をいただければ就職活動は止めます。御社が第一志望ですから。」
応募者B「就職活動はこれで打ち切ることになると思いますが、御社から頂く内定の理由によっては就職活動を継続するかもしれません。」
応募者C「御社が第一志望ですが、就職活動は続けます。就職活動は私に広い視野を与えてくれました。御社に入社するつもりですが、業界や社会の勉強になりますので、しばらくは活動を継続します。」
応募者D「御社が第一志望ですが、就職活動は続けます。他でも内定が取れる私の方が御社にとっても魅力的でしょうから。」
応募者E「御社が第一志望ですが、就職活動は続けます。なぜなら、御社への想いが本物かどうかを自分自身に確認するためです。他で内定をとれたことで、もし私の心が変わるようなら、私の想いは本物ではなかったということですから。」
応募者F「御社が第一志望ですが、就職活動は続けます。なぜなら、自分の可能性は自分の視野の外に拡がっているものだからです。御社のことも最初は視野の中にありませんでした。あえて視野にないものを見ようとしたおかげで御社のことを知りました。ここから自分の視野の外を眺めようとすることは大切なことだと分かりました。もちろん御社へ入社するつもりではいますが、心変わりする可能性も否定できません。もし今の言葉で私の採用を見送るられるようでしたら、それは最初からご縁がなかったものだと思って諦めます。」

 含みを持たせている応募者Bから正直度が高い応募者Fまで様々な回答が考えられる。が、これらに共通しているのは、理由付けの中に真理を含んでいる点だ。
 Bは第一志望非在論の(8)に詳述したが、内定理由は就職先最終決定のための重要な要素の一つだ。C以降も、どの回答を君が用いても君の本心とは多少ずれるところはあろうが、述べている内容は納得せざるを得ないであろう一定の理を含んでいる。
 それでも、言われた面接官は『就職活動は続けます』の回答にわだかまりは感じるであろうから、自然に言えるならAが良かろう。そして、自然に言うためにも第一志望という概念は可能な限り棄てるべきだ。応募する全てが第一志望。その基本スタンスは、これまで述べたように最も合理的な思想で、尚且つ内定後の心変わりも織り込み済みという点で、最も人間的な思想なのである。

(9)
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饗庭 悟 : AEBASATOL

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