【寓話】国王と六人の将軍@草稿

≪ 寓話:我が子の面接対策における親の役割 ≫
(対象:面接される若者を見守る人)

 大昔のこと。大国の統治者として尊崇を集めたる国王ヤクインには太子ジンジがいた。国王は太子を立派な後継ぎにするため、六人の大将軍に彼を輔弼させた。
 ある時、王都から遠く西に離れた国ざかいの町を蛮族が侵した。その族長である李夷曼は若年ながら人望を集め、最新の兵器と戦略を駆使して次々と諸国を蹂躙し大陸の覇権を握ろうとしている。
 この国難に太子が当たることとなった。彼は直ちに西の国ざかいへの遠征軍派遣を企図する。太子は六大将を招集しこう言った。
 「蛮族を征すべく討伐軍を派遣する」
すると大将たちは、ぜひとも我が軍にご下命を、と先を争う。
が、太子は彼らの白髪頭を見渡しながら言った。
 「六将よ。この度の相手は最新の兵法を駆使する若き名将李夷曼である。ゆえに、今の若き世代の感性や新しい兵器に疎い汝らでは心許なし。それに、国ざかいまでは遠い。長い道中にて、国の柱石たる汝たちの体に障りがあっては父王にも申し訳が立たぬ。汝らには他にも政の大事をやってもらわねばならぬ。よって、この度の戦には若く優秀な将を派遣しようと考えている」
六大将は不満を感じるも御心に従わねばならぬ。そこで彼らはこう言った。
 「我が君。我らの出陣は諦めましょう。しかし、若き将を派遣するなら、ぜひとも我らが息子たちに大命を与えたまうよう伏してお願いいたしまする。我らが息子は我らに従い戦場を駆け抜けました。我らが持つ全ての叡智を与え鍛えました」
太子は答えた。
 「よかろう。だが、蛮軍の動きは早く、一刻の遅れが一城の陥落につながる。大軍では剣を交えることすらあたわぬ。よって、軽騎をもって蛮軍にあたるべし。すなわち、派遣は一将のみとす」
六大将は大いにどよめき、またも、我が子にご下命をと先を争う。続けて太子は言った。
 「余は若き六人の将のうち、この度の遠征に最も適したる者を見定めたい。汝らの息子たちを接見するとしよう」
というわけで明日午後に、策を記した具申書をもとに六人の若者一人一人を太子が下問し、そこで太子の『内諾』を得た者が国王と接見して正式に征西将軍に任命されることとなった。

 六人の大将軍は御前を下がり、それぞれの邸宅へと向かう。だが六人の中には、すぐに宮殿へと引き返し、その夜のうちに太子からの『内々諾』を得んと、学問府の同門で太子に近侍する友人に口利きを頼む大将軍もいたようである。

 さて、第一の大将軍カカンショウは、息子の将カホゴへ具申書に記す策を授けた。それでは飽き足らず、息子本人が記すべき具申書を代書した。カホゴは、父の策は古いと思い意見する。これにカカンショウは昔の手柄話をあて、この策がいかに素晴らしいかを自慢し始めた。カホゴは、父の考えや価値観、あるいは将軍かくあるべしという息子への希望、それらを押し付けられる窮屈さを感じる。が一方で、父の期待に答えなければという思いが圧力となり、つい父の言うがままになってしまう。カカンショウは太子がどんな人物かをとことん教え込み、接見の受け答えの一語一句を想定し、自分の前でなぞらせる。まるで自身が接見されるかのようであった。さらに、少しでも見栄えを良くするためと言い、高価な朝服を息子に買い与えた。カホゴは、これで本当にいいのかと思い、第三者の助言を望むも、誰に問うべきかを知らない。あるいは、父の意見を退け自分独自の策を自力で挙げんとするが、そのような才もなし。ついに、具申書・口上ともに父の策の通りとなる。
 第二の大将軍カビンはカカンショウとは同族である。カビンは息子の将シンパイが太子の御前で上手く受け答えができるかを不安に思う。それがゆえに、彼はそっと、勝手知ったるカカンショウの邸に忍び込み、カホゴがどんな口上を述べるのかを盗み聞きする。帰ってきた彼はシンパイがどんな具申書を書いたのか、接見では何を言うのかを問い質す。シンパイは試しがてら、父に書を見せ口上を披露する。それを聞いたカビンは嘆息して言った。カホゴはもっと良い策を上手く語っていた、お前それで大丈夫なのか、と。息子は問うた。では如何様にすればよいのですか、と。父は唯、些細な欠点を指摘するのみであった。重ねて、良い策を問うたが、父は不安げな顔で頑張れと言うのみで、妙案を授けてはくれなかった。シンパイはこの度の接見に、彼なりの自信と意気込みを持っていのだが、父の否定的な言葉と様子に、得体の知れない不安を覚えた。そんな息子の様子にさらに大きな不安を掻きたてられるカビン。しかし、息子への奇妙な遠慮のために、息子が何を考えているのかといった踏み込んだ会話が以後、できずじまいであった。
 第三の大将軍ジンミャクはこの度の遠征に関する自分の所見、太子の考えや気質を息子の将ソツナシに伝える。息子は即座に、具申書と接見での口上それぞれの案を述べた。それを聞いてジンミャクは思う。息子の策は悪くない。だが、やはり彼は戦場しか知らない。いくら妙策をもっていようとも、宮殿にて太子や諸臣に口上を述べ説き伏せるのはまた別問題である。ジンミャクは息子がまだ広い世界を知らないことに思い至った。それについて息子のソツナシも経験不足を自覚している。だが彼は宮殿の人間を誰一人知らず、接見で気をつけるべきことを知り得ない。むろん、父の助言も必要だが、何と言っても同じ軍人で親子である。視点・発想が似てしまう。彼は父に、また別の価値観でより真に迫った助言を得たい、と正直に訴えた。ジンミャクは息子に、知人で太子に仕える文官シュウ・ショクカと接見前に会わせることとし、紹介文を書いた。
 第四の大将軍ナンクセは他の大将軍の手前、同じように息子を派遣するよう主張したが、実はこの遠征に息子を行かせたくない。あんな辺境の町へ息子を派遣するなんて、つまらない任務だ。もっと息子にふさわしい重要な任務があるはず。そう思っているナンクセは、遠征に乗り気になっている息子の将カタミセマシへ何の助言も与えない。新しい朝服で接見に臨もうとしている息子に、朝服代も援助しない。それどころか、こんなことに巻き込まれるのも国ざかいの守備隊長が無能だからだと非難したり、太子付きの文官シュウ・ショクカに何とかしろと抗議文を送りつけたりする始末。カタミセマシは父の行動にただ恥じ入るばかりであった。
 第五の大将軍ホウニンは息子に言った。お前を信じているから、お前の好きなようにしろ、と。息子は、自由なのはいいが、何だかただ放って置かれているだけのような気がした。父が面倒がりな性格なのはよく知っていたからである。事実、息子は適齢に達したにもかかわらず、まだ元服させてもらえず、幼名のムチャ丸のままであった。彼は遠征軍の将軍になれるのはカッコイイと思い、選ばれることを望んだが、具申書も口上も何とかなるだろうと適当に仕上げた。
 第六の大将軍キカレ・タラ・コタエルは若い頃、国王に同じような接見を受けたことを思い出していた。ずっとつけている日記の数十年前の項を見る。時代は変わり状況は違えど、何を望み何を悩み、どのように周囲の人間に助けてもらったかは、自分の時代も息子の時代も変わらない。息子のことを未熟者めと何度も叱ったが、自分もかつては同じような過ちを犯していた。そのことを謙虚に思い、あの時に自分は何を父に望んでいたかを思い出し、息子の将ジリツにはただ、太子と国のことだけを思えと助言した。ジリツは具申書の内容や接見での口上に一晩中悩んでいたようだが、キカレ・タラ・コタエルは黙って息子の背中を見つめるだけであった。ただその心中では、もしジリツが何か助言を求めてきたら、その時は息子の立場を思って真剣に言葉を与えないと、と考えていた。
 
 次の日の夜、事が動く。その日の午後、六人の大将軍の息子たちを一人一人接見した太子ジンジは断を下す。まず、歳は良き頃ながらまるで子供のような考えしか持たぬムチャ丸は論外であった。シンパイとカタミセマシは優秀ながらも何だか弱々しい。残りの三人を明日、国王の接見へと伴うことにし、床へ就いた。が、緊急の一報が太子の枕元へ届けられる。蛮軍がさらに市城を落とし、我が国の重要な穀倉地帯へ進軍していると言う。最早一刻の猶予もなし。太子は夜中ではあるが直ちに遠征軍を進発させることとした。太子は三人の中で、実は意中の人であったカホゴを直ちに召し、即座に『内諾』を伝え、正式の任命を前に征西将軍の印綬を授けて出陣させた。
 翌朝、国王ヤクインは太子の報告を受ける。三人の者を本日の接見に伴うつもりであったが昨夜カホゴを出陣させたことを聞き、国王は太子の判断の素早さに目を細めた。それでも国王自ら、全ての大将軍の息子たちの具申書を侍従に読ませて内容を確かめることにした。カホゴの具申書が読み上げられたとき、国王は手にしていた杖を握り締め怒色を満面に表したという。国王は言った。
 「これは父の大将軍カカンショウの考えそのままではないか。余は三十年以上の付き合いゆえよくわかる。カホゴは自分で考える力はない。危うき哉。彼はきっと李夷曼の前に敗れ去るにちがいない」
これを聞いた太子は蒼ざめ、直ちにカホゴの任を解くよう使者を差し向けようとする。それを見た国王はこうジンジに諭した。
 「太子よ。一度『内諾』し印綬を与えた以上、将軍としての身分と権利は法によって守られる。王族といえどもこれを破ることは叶わぬ。もし無理に任を解けばカカンショウ親子は叛乱を起こすであろう」
国王は自らソツナシとジリツに印綬を与え、すぐさまカホゴの後方支援へと出陣させた。
 国王は六大将を召して言った。
 「カカンショウ、カビン、ジンミャク、ナンクセ、ホウニン、キカレ・タラ・コタエルよ。余も汝らと同じく我が子を案じておる。だが、我々が長い年月をかけ大切に育てたのだ。子らを信じようではないか」
 国王はシンパイとカタミセマシにいつでも出陣できるよう準備を整えさせ、ムチャ丸を召し元服させ、シンライという名を授けた。


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 子は親の成績表と言われる。親の長年の教育の是非が、子の姿として示されるというわけだ。もしそうなら、「一夜漬けの勉強」で成績表は変わらない。長い人生においては、数ヶ月かけた対策など一夜漬けのようなものであろう。すなわち、今更ジタバタしたところで何も変わるわけではない。もちろん十二分の準備は不可欠だが、それも長年蓄積された土台があったればこそ。だから我が子を、そして親としての自分も信じようではないか。
 面接対策において親のできることは限られている。エントリーシートの代書などを親のできることと勘違いしてはいけない。そのような過干渉や、子の精神を不安定にするような過敏な反応は、結局、子供の「自力でサバイバルする能力」を奪うことになる。ましてや、大学の就職課に難癖をつけるクレーマーになることや、子の活動に無関心な放任主義は、どちらも責任や義務を他人に押し付ける行為で、子に余計な負荷をかけることになり、「サバイバルするための体力」を奪いかねない。
 面接対策で親ができることは、あくまで後方支援。しかもそれは就職活動でなくてもできる普通のこと。たとえば資金面。健康管理もそう。何枚もエントリーシート・面接カードを書き、何度も面接に赴くのは結構体力がいる。精神面もだ。特別なアドバイスはできなくてもいい。それは専門家に任せ、専門家にはできない「オンリーワンで唯じっくり話を聞く」ことも大切だ。
 面接対策で親が特別何かができるとすれば、社会人に触れる経験の不足を補ってやること。親の人脈を活かして、子に「初対面の社会人に会って話をする」という経験を積ませることは、面接対策にかなり有効だ。
 あとは静かに見守ってあげることである。面接での受け答えを一緒に考えてあげるのもいいが、やはりそれは自力で考えさせ、どうしても行き詰ったときだけ助けてあげる方が面接でのサバイバル力が身につく。その助けるときも、こちらから手を差し伸べるのは極力控え、子供に何か聞かれたら真摯に答えるという姿勢を貫いた方が、ちょうど良い距離感が保てよう。
 なお、本書はあくまで面接にテーマを絞っており、ここでも面接対策における親の関わり方という趣旨で話が書かれてある。しかし、この寓話においては、面接以外のテーマとして、内定取り消しと法律との関係について少し言及した。
(了)


『スーツを着るな』というお達し@草稿

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饗庭 悟 : AEBASATOL

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